today’sbooks’s diary

出会った本のことなど

『いま生きているという冒険』

石川直樹著 理論社 2006年4月刊

古書店で500円で購入。

現在も次から次へと冒険を続け、素晴らしい写真や文章を発表している著者が、高校生でインドを一人旅して以来、10年の旅の軌跡をつづったもの。インド、アラスカ、北極から北米・中南米をへて南極、チョモランマ、ミクロネシア、熱気球太平洋横断。旅で遭遇する想像を絶する状況には驚くばかりですが、先入観を持たずいつも素直に世界と対峙する著者の姿勢に感銘を受けました。印象に残った一節を引用します。

「…ただひたすら歩き続けるという行為は、もしかしたら人間にとって大きな幸せなのではないかと思うようになりました。」

「もし地図やコンパスをたよりに航海している人が、それらを一切なくしてしまったら、途方に暮れてしまうでしょう。しかし機械や装備に寄りかからず、そういったすべての要素を知恵に置き換えることができるとしたら、その人は身体一つで歩き続けることができます。それは人間に祖阿割っている野生の力を最大限に引き出した、もっともシンプルで強い生き方につながっています。」

文明が発展した現代の私たちは、自分たちが昔の人に比べてすぐれた知力を持っている、と思い込んでいるかもしれませんが、実際は文字を使い始めたことで人の知力は後退し始めたのだ、という話を聞いたことがあります。

無文字社会は野蛮ではなく、当時の人はすべてが頭の中に入っていたので記録する必要がなかったということでしょうか。

ふだん機械に頼るのはいいけれど、万が一機械を使えなくなっても、生きていく術を知っていることが大切だと感じます。

私は石川さんのような冒険はできませんが、日常の生活の中でも「これはあたりまえではないかもしれない」と考える機会を持つようにしたいと思います。

 

 

『SFカーニバル』

フレドリック・ブラウン編 小西宏訳

創元SF文庫で、1964年初版。

古書市で購入。買ったものは1999年に復刊フェアで再版したもの。47版ですから、かなり売れた本なのでしょう。

値段は古書でありながら、1000円。ちょっと高いかな、と思いましたが、調べてみるとまともな状態の古書は1800円を超えているようなので、購入しました。

アマゾンのレビューも、高評価が多かったです。

ユーモアSFのアンソロジーで、短編10篇が収められています。

『ジョーという名のロジック』『ロボット編集者』あたりが面白かったかな。

いずれも、インターネットやAIが普及した現代に通じる、ブラックジョークな世界でした。人間が主導権を握っているつもりが、実際はコンピューターやロボットに踊らされている。どちらもユーモラスで、深刻な展開にはなりませんが、これが一歩狂い始めたらどうなるか、と考えると、怖いです。いま、私たちもいろいろ気をつけたほうがいいことがあるのでは、と思いました。

各作品の扉に、司修さんのとてもすてきなイラストがあって、魅力的な本になっています。

SF作品は、あまり読んでいませんが、いまのところ感じているのは、人間存在の根幹を揺さぶるようなタイプのものが少ないということ。架空の世界をゼロから作り上げる、それも破綻があってはならないので、論理が力を持っているということでしょうか。ちょっと頭が疲れてしまうこともあるんです。

でも興味があるので、古書市で面白そうなものがあると、つい買ってしまうんですけど。

そういえば、ホーガンの『星を継ぐもの』は、素晴らしかったです。池央耿さんの名訳も記憶に残っています。